「トリ子さん、最近は時間制限食なる断食法が流行っているみたいですね」
受付カウンターで雑誌を読んでいたトリ子さんが、カイロプラクティックの施術を終えたカイゼン先生の声に気付いた。
「はい、確かに話題になっていますよね。8時間しか食事ができないというルールだとか」
「そうですね。食べ過ぎ防止や代謝改善を目的に、一時は注目を集めましたが、最近になって長期的なリスクが指摘されているんです」
カイゼン先生はトリ子さんに、この話題について詳しく説明することにした。いつものようにわかりやすく、それでいて確かな根拠に基づいて話し始める。
「実は先日、大規模な観察研究で驚くべき結果が出たんですよ。食事を1日8時間に制限していた人は、標準的な12~16時間と比べて心血管疾患による死亡リスクが約2倍に上がっていたそうです」
「えっ、そんなに高いリスクがあるんですか!?」
トリ子さんは不安げな表情を見せた。
「はい、特に心臓病や癌の既往があると、さらにそのリスクは高まる可能性があります。研究の著者も、8時間以内の極端な時間制限には注意が必要だと指摘しています」
「でも、そうすると時間制限食自体が良くないという話になってしまいますよね?」
トリ子さんはこの話題について疑問を感じていた。
「時間制限食そのものが良くないわけではありませんよ」
カイゼン先生は残りの施術もすませ、落ち着いてトリ子さんに答えた。
「短期的な介入試験では、時間制限食が体重減少や代謝改善に一定の効果があることが報告されています。ただ、長期にわたって極端な時間制限を続けることには注意が必要ということですね」
「なるほど、時間制限の程度が大切ということですね。でも、どれくらいの制限が適切なんでしょう?」
「おっしゃる通りです」カイゼン先生はメモを取り出し、具体的な数値を示した。
「この研究では、12時間以上食事をとる標準群に比べ、8時間以内の制限群で顕著に心血管死リスクが高かったそうですから、8時間前後が危険領域と考えられます」
「12時間以上はOKで、8時間以内がNG、ということですね」
トリ子さんはメモを取りながらうなずいた。
「ただし、8~10時間の中間群でも心血管疾患の人には少なからずリスクがある可能性が示唆されています。健康的な食生活を維持するには、12~16時間程度の食事時間が望ましいでしょう」
「そうですか。なるべくその範囲に収めるよう心がけます」
トリ子さんは真剣な眼差しでカイゼン先生の説明に耳を傾けていた。
「でも先生、時間制限食以外の健康的な食生活のポイントは何でしょうか?」
トリ子さんは更に質問を続けた。
「食事の質も極めて重要ですね」カイゼン先生は頷きながら答えた。
「朝食をきちんととり、DASH食やメディテレーニアン食に代表される、抗酸化物質が豊富で栄養バランスの良い食事を心がけることです」
「DASH食、メディテレーニアン食って?」
トリ子さんには聞き慣れない言葉だった。
「DASH食とは、野菜、果物、全粒穀物、低脂肪乳製品を中心とした食事パターンです。一方のメディテレーニアン食は、魚介類や赤ワイン、オリーブオイルなどを適量含む地中海式の食生活を指します」
「なるほど、食材を選ぶことも大切なんですね。両方とも心血管疾患の予防に良いそうですし」
トリ子さんはすっかりこの話に夢中になっていた。
「そうですとも。食事の質を上げると同時に、過剰な制限は避けて、適度な時間制限に収めることが大切なのです」
カイゼン先生は強く口を噛んだ。
「ふむふむ。でも、その"適度な時間制限"って、一人一人最適なものは違うんじゃないですか?」
トリ子さんはナイーブな質問をした。
「確かにその通りです!」カイゼン先生は頷いた。
「一人一人の生活リズムや体質は異なりますから、画一的な基準はありません。大切なのは、専門家の助言を受けながら、自分に最適なサイクルを見つけていくことなのです」
「へえ、そういうことなんですね」トリ子さんは感心した様子だった。
そしてふと気付いた。
「あ、そうだ!」トリ子さんは小さく手を打った。
「私、最近は朝は食べられないんですよ。寝坊がちだし、出勤前は大して時間もないんで…」
「ほら、そういうケースこそ個別のアドバイスが重要になってくるわけです」
カイゼン先生は優しく言った。
「朝食を抜くと、エネルギー代謝の乱れや食欲過剰につながります。トリ子さんの場合なら、手軽に済ませられる朝食メニューを一緒に考えてみましょう」
トリ子さんはうなずき、カイゼン先生と相談しながら、自分に適した朝食のスタイルを見つけていった。
次第に笑顔も戻ってきた。
「ありがとうございます先生。今日は勉強になりました!」
カイゼン先生はトリ子さんの明るさに心から感心した。
「いえいえ、そちらこそ真摯に耳を傾けてくれてありがとう」 カイゼン先生はトリ子さんの明るさに心から感心した。
「適切な食生活は、健康はもちろん、前向きな姿勢を保つ上でも大切なことなのです。トリ子さんの元気な雰囲気を見ると、その点を実感しますね」
「えへへ、そう言ってもらえると嬉しいです」 トリ子さんは少し照れくさそうに笑った。
「でも、私がここまで前向きでいられるのは、先生をはじめ、スタッフの皆さんの支えがあったからこそですよ」
カイゼン先生は頷きながら、トリ子さんのエピソードを思い出した。
トリ子さんが入社した当初、体調を崩しがちで欠勤も多かった。しかし、スタッフ一同で食生活のアドバイスやサポートを続けた結果、少しずつ改善の兆しが見え始めた。
そして今では、常に明るく健康的な姿を見せてくれるようになった。
きっと今日の話も、トリ子さんの生活にプラスの変化をもたらすに違いない。
カイゼン先生はそう確信し、トリ子さんに言った。
「トリ子さん、あなたの前向きな姿勢が何よりの寄与をしているのですよ。これからも食生活に気を付けながら、元気でいてくださいね」
「はい!私も負けませんよ」 トリ子さんは力強く答えた。
改めて、KAIZEN TRIGGERの理念を実感する一日となった。
一人ひとりにあった健康的な生活のサイクルを見出し、それを継続的にサポートしていく。そうすれば、きっと誰もが健やかな毎日を過ごせるはずだ。
詳しく解説
序論
近年、時間制限食(TRE)と呼ばれる間欠的断食法が健康志向の人々の間で注目を集めています。TREとは、1日の食事を特定の時間枠に制限する方法で、代表的なものが食事を8時間に絞る「8時間食」です。この断食法は従来の3食制と比べて、体重管理や代謝の改善、寿命延伸への効果が期待されています。
しかし、その一方で、長期的な健康リスクについては不明な点が多く残されています。2024年3月に発表された研究結果は、TREと心血管疾患リスクの関連性を指摘し、その安全性について改めて警鐘を鳴らしました。本記事では、この研究内容を紹介するとともに、TREをめぐる最新の科学的知見と、健康維持に有効な食生活のあり方について解説していきます。
TREの健康影響を評価した本研究は、アメリカの国民健康・栄養調査(NHANES)のデータを用いた大規模な観察研究です。2003年から2018年にかけてNHANESに参加した20,078人の食生活パターンと死亡リスクを追跡調査したものです。被験者の平均年齢は48歳で、男女比は半々、人種は73%が非ヒスパニック系白人でした。
本研究の著者らは、被験者の1日の食事時間から、12時間以上の「標準群」、8-10時間の「中間群」、8時間以内の「TRE群」に分類。8年間の追跡期間中に発生した心血管疾患による死亡リスクを群ごとに比較しました。さらに、心血管疾患やがん既往歴のある患者を対象とした副次的な解析も行われています。
本論
研究の結果、TRE群では標準群と比べて心血管死のリスクが約1.9倍に上がることが判明しました(ハザード比1.91、95%信頼区間1.20-3.03)。この傾向は、心血管疾患の既往がある患者群(同2.07、1.14-3.78)やがん患者群(同3.04、1.44-6.41)でも同様に認められたとのことです。
一方で、食事時間が12-16時間の標準群と、がん死や全死因死亡とは有意な関連が見られませんでした。がん患者において、むしろ16時間を超える食事時間ながん死リスクを下げる可能性が示唆されています(ハザード比0.47、0.23-0.95)。
本研究の筆頭著者であるVictor Wenze Zhong氏は「この結果はさらなる検証が必要だが、8時間未満の極端な時間制限が心血管死と関連する可能性を認識することは重要である」と指摘しています。一方で、クリストファー・ガードナー氏(スタンフォード大学)らは、本研究の限界を指摘する声もあがっています。
確かに本研究には、以下のような課題が残されています。
1) 食事思い出し調査は2日分のみに基づくものである点
2) 他の交絡因子(喫煙、運動習慣など)による調整が不十分である点
3) 観察研究のため、因果関係は立証されていない点
しかし同時に、広範な人口集団を対象とした大規模研究であり、統計的有意差が認められた点は重要な示唆を含んでいます。TREと心血管死の関連メカニズムとして、Zhong氏は「TRE群で除脂肪筋肉量が低かった点が一因かもしれない」と推測しています。
筋肉量の減少は、様々な生理学的経路を介して心血管疾患リスクに影響を与えることが知られています。まず、エネルギー消費量の低下による肥満や糖尿病のリスク上昇が懸念されます。加えて、レニン・アンジオテンシン系の慢性的活性化による血圧上昇、インスリン抵抗性の亢進、筋小胞体ストレス増大によるアディポカイン分泌異常など、さまざまな有害経路の関与が指摘されているのです(Biomolecules. 2020;10(3):391)。
また、TREには望ましくない食行動を誘発する危険性も指摘されています。NYU LangoneのSean Heffron氏は「空腹期間が長くなれば、その後に過剰な食べ過ぎにつながりかねない」と語っています。栄養の偏りやエネルギー過剰摂取は、心血管リスクを高める一因となり得るでしょう。
一方で、TREを支持する研究知見も存在します。ヒトとげっ歯類を対象とした短期介入試験では、TREが肥満解消や健康寿命延伸に有効であることが報告されています。その作用機序としては、
1) ミトコンドリア活性の改善による老化抑制
2) 自食作用機能の亢進によるタンパク質異常除去促進
3) 炎症反応の抑制
4) 腸内環境の改善
などが提唱されています(Cell Metab. 2020;31(2): 212-219)。
このように、TREをめぐってはプラスの研究知見もありますが、今回の大規模観察研究結果は、一定の注意が必要であることを示しています。特に心血管疾患やがん罹患者においては、極端な時間制限の危険性を認識する必要があるでしょう。
では「いつ」「何を」食べるべきなのでしょうか。専門家の一致した見解は、「質が何より重要」というものです。米国循環器学会が推奨するDASH食やメディテレーニアン食は、朝食欠食習慣よりも有益と示されています(J Am Heart Assoc. 2023;
TREは短期的には体重減少や代謝改善に一定の効果があるかもしれませんが、本研究結果が示すように、長期的には健康リスクを高める可能性もあります。特に心血管疾患やがんの既往があれば、極端な時間制限は避けるべきでしょう。
しかし、これは必ずしもTREそのものを否定するものではありません。むしろ、食事の「質」と「タイミング」の両面から、個人に最適な食生活パターンを見つけることが重要だと言えます。
食事の質については、循環器疾患の予防で定評のあるDASH食やメディテレーニアン食が推奨されています(Nutrients. 2021;13(4):1265)。前者は野菜、果物、全粒穀物、低脂肪乳製品を推奨し、後者は魚介類や赤ワインなどを適量含む地中海式食生活です。両者に共通するのは、バランスの良い栄養素摂取と抗酸化物質の豊富な摂取です。
一方、食事のタイミングについては、朝食の重要性が従来から指摘されています。朝食を抜くと、エネルギー代謝の乱れや食欲過剰につながります。米国心臓協会は、朝食を欠食しない食生活を推奨しています(Circulation. 2017;135(25):e1182-e1194)。
つまり、理想は「適量の朝食」を基本に、DASHやメディテレーニアン食に代表される質の高い食事を、1日の食事時間を12-16時間程度に収めることだと言えるでしょう。
特に牛久市のカイロプラクティック施設「KAIZEN TRIGGER」では、この点を重視したサービスが提供されています。ここでは高度な資格を持つスタッフが、「カイロプラクティック」と「パーソナルトレーニング」を融合させて、食生活指導を含めた総合的な健康サポートを行なっています。
具体的には、LINE上で食事内容をチェックし、栄養学と生化学の知見に基づく具体的なアドバイスを行なっているそうです。さらに、足部評価やテーピングなど、運動と連動した食生活指導にも力を入れているとのことです。
このように、KAIZEN TRIGGERでは、適切な食習慣と運動療法を組み合わせることで、より効果的な健康づくりを実現しようとしています。そして何より重要なのは、ひとりひとりに合わせたきめ細かい対応を心がけている点です。
まとめると、健康的な食生活を実現するためのポイントは、以下の3点に集約できるでしょう。
- 質の良い食事を心がける(DASH食、メディテレーニアン食が理想)
- 適度な時間制限を設け、12-16時間程度の食事時間に収める
- 専門家によるパーソナルな食生活アドバイスを受ける
これらのポイントを意識することで、より健康で生産的な生活スタイルを手に入れられるはずです。
最後に、本記事で紹介した研究論文を列記します。引用に当たっては適切な形で参照しましたが、より詳細を知りたい方はぜひ原著にあたってみてください。
- Calorie restriction with time-restricted eating prevents age-associated muscle fiber poly-denervation. Biomolecules. 2020;10(3):391.
- Time-Restricted Eating Effects on Body Composition and Metabolic Measures in Humans who are Overweight: A Feasibility Study. Cell Metab. 2020;31(2):212-219.
- Dietary patterns and cardiovascular disease prevention: A scientific statement. Nutrients. 2021;13(4):1265.
- Meal Timing and Frequency: Implications for Cardiovascular Disease Prevention: A Scientific Statement. Circulation. 2017;135(25):e1182-e1194.